たまらん

近所に「たまらん坂」という坂がある。一橋大学、当時の東京商科大学の学生がもらした言葉とも、江戸時代の商人とも言うが、とりあえず疲れるのでこの名がついたという。あまりに安直なネーミングのようだが、確かにそこそこの勾配で長さもあるので、わからないでもない。まぁ安直だけど。


今日その坂を通ると、中ほどに交通事故跡にしては豪勢に花が添えてある。おまけに写真や手紙が散在し、ちらほらとだが人が絶えない。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%82%89%E3%82%93%E5%9D%82
どうもこういうことらしい。そして何かの教祖が死ぬとはこういうことかと妙に納得する。
なるほどビールの数ほどではないが、なぜエースコックのスーパーカップが散見されるのか不思議だった。「多摩蘭坂」という字は清志郎が当てたのか。なかなか趣がある。小糠雨が降る中「いかにも」といった年齢層のファンたちが惜しむ横で、フラッシュをたいて撮ってきた。事故現場じゃないんだからいいよね、別に。


そういえば武蔵野を題材にとった黒井千次の『武蔵野短編集』に、清志郎たまらん坂が出てきたのを思い出した。「登り坂と降り坂と、日本にはどちらが多いか知っているかい」…こんな風に始まる、いかにも「内向の世代」らしい重厚さと洒落っ気が…まぁこんなつまらない話はよす。


作家の角田光代さんは大の清志郎ファンで「あんなにカッコイイ声の人はいない」とか書いていた。さぞやお嘆きだろう。自分は正直そこまでよくわからないのだが「そういえば俺も車中泊とかしたこともあったなぁ、あれはあれでなかなかどうして悪くなかったなぁ」とか道すがら思い出しながら『スローバラード』とかデタラメに口ずさんだりした。